忍者ブログ
執筆状況や覚え書き、裏話など。作品のネタバレ含みます。 コメント、拍手はご自由にどうぞ。
×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。

坂田の誕生日から一日過ぎてしまいましたが……。
誕生日記念の短編です。坂田の出番少ないです(汗)
以下本文。

* * * * *

 それは一枚の紙切れから始まった。
「坂田がいなくなった?」
「そうなんだよ、涼子。これを見てくれ」
涼から渡された一枚のメモ。そこには『探さないでください 坂田』とタイプされたシンプルな文が記されていた。
 食い入るようにそれに目を通した涼子は、
「これは私に相談するべきじゃないわね。もっと適した相談相手がいると思うけど」
ニヤリと笑みを浮かべ、誰かに電話をかけ始めた。


 涼子に呼び出された泉は、
「何故私が……」
坂田が記したであろう紙を片手に、苦虫を噛み潰したかのような表情を浮かべていた。
「良いじゃない、どうせ暇だったんでしょ」
「お前と一緒にするな」
本当はやることが沢山あるんだ、と言いつつも、泉の視線は紙に注がれていた。内心、坂田のことが心配らしい。
「ゲームの一件の後、ここに居候してたんだけど、今朝から急に姿が見えなくなっちゃって……。まさかとは思うけど、泉と空の家に行ったとか」
「いや、来ていないな」
「じゃあ一体どこに……」
 二人がうなだれていると、
「私に任せなさい」
小型のモニターを持って、涼がやってきた。モニターの中には、桃太郎の姿が見える。
「坂田君の服に発信機を付けておいたんだ。桃太郎に聞けば、居場所が分かるはずだよ」
鼻高々と言う涼に、
「だったから最初から自分で探せー!」
二人の怒声が飛んだ。


「結局お前が行ってやるのか。このお人好し」
「うるさい。いくら師匠といえども、それ以上言うとこのモニター叩き割るぞ」
 電車に揺られ、そんな意味のない会話をする。他に乗客がいないことに、モニターに話しかける泉は安堵した。傍から見れば、大きな独り言を言っているように見えなくもない。
「それにしても意外だな。まだ俺のことを師匠として扱うとは」
「一応恩もあるから、な。だが、そのうち対等に接したいとは思っている」
「そうか。早くそうなることを願っとくよ」
 車窓の景色が流れていく。新緑の芽吹きに、泉は、もうすぐ来る夏を感じた。


 桃太郎の指示でたどり着いた場所には、
「これは……」
小さな墓地があった。比較的立派な墓地が並ぶ中に、枝を十字に組んだだけの、簡素なものがあった。
「……本当は、もっと早く来るべきだったのに。こんなに遅くなってしまって、ごめんなさい」
その墓の前で手を合わせているのは、
「坂田……」
泉が探している、その人だった。
 その気配に気づいたのか、坂田は強張った表情で振り返った。
「泉さんですか。……どうして」
明らかな拒絶と嫌悪の入り混じった声だった。
「涼子に頼まれて、探しに来たのだが……どうやら迷惑だったようだ。すまない」
素直に謝られたことに困惑したのか、
「いえ、別に……。もう、終わりましたし、帰りましょうか」
そう言って、泉の方へ歩を進めた。


「あそこには、僕の家族が眠っているんです」
 電車の中。向かい側の席に座る泉に、坂田は淡々と語った。
「とても正式に埋葬できる状況ではなかったので、僕が埋めました。もう何年も経っているので、今日は久しぶりに手入れをしようと思って」
どことなく事務的な口調に、泉は相槌を打てなかった。モニターの中の桃太郎も、沈黙を貫いている。
「別に隠すほどのことでもないのですが、涼子さんたちには、やっぱり言い出しづらくて……。皆さんを困らせてしまいましたね」
「いや、そんなことはない」
 泉はようやく、それだけ言った。
「誰にでも、隠したいことぐらいある。お前も、無理に言わなくて良いんだ」
それは、突き放すような言葉だったかもしれない。しかしその距離感が、今の坂田には必要だったのだろう。
「……有難う御座います、泉さん」
緊張が解けたのか、目的の駅に着くまで、坂田は眠った。
 坂田が自らの意志で他人に隙を見せた、初めての瞬間だった。


「何ですかこの紙は」
「見ての通りだよ。君の本心を、私が代わりに伝えてあげようと思って」
「ふざけないでください。……良い機会なので言っておきます。僕は、あなたのそういうところが大嫌いです」
「流石にそれは落ち込むよ……」
「余計なことは今後一切しないでください!」
 涼と坂田が言い争う様子を見ながら、
「涼子、お前始めから、あの紙を作ったのが涼だということ、気づいていただろう」
「え、何のこと?」
「お前も余計なことを……。全く、似た者親子だよ」
泉はため息をついた。
「でもきっと、私が行ってたら、坂田は素直になれなかったわよ」
「え……?」
 意味深な言葉を残して、涼子は坂田たちの仲裁に向かう。取り残された泉はその発言の真意を考えようとしたが、
「お前にはまだ分からないだろうな。考えない方が良いぞ」
近くのモニターから聞こえた声に諭された。泉はますます訳が分からなくなって、考えることを止めた。
  (終わり)
 

拍手[0回]

PR
ご無沙汰しておりました、水連真澄です。

オンの方で大幅な環境の変化があり、しばらく更新が出来ませんでした。
引っ越しとか初体験でしたよ……。
ようやく新たな環境が整ったので、今日からサイトの更新を再開したいと思います。

早速ですが、新連載、はじめました。長らくお待たせして申し訳なかったです。
タイトルの通り、「桃太郎」の影の主役(?)水無月涼の物語です。
スピンオフ、ということで、本編未読の方にも分かるように書いていくつもりですが、先に本編に目を通すとより楽しめるのではないかと思います(←宣伝)

ほぼ6年前の話です。涼さんがまだ10代です。若い。
桃太郎はどのようにして誕生したのか、涼は本当はどんな人物なのか、など、本編で描ききれなかった部分を、どんどん掘り下げていきますので、見守っていただけると嬉しいです。一言でも感想をいただけますともっと嬉しいです(コラ)
全10回前後になるのではないかなあ、と。
まだ脱稿しておりませんので、どうなるかは何とも言えません。

当分はスピンオフと「紡ぎ詩」をメインに掲載予定です。
今年度も、引き続き宜しくお願い致します!

拍手[0回]

 小鳥のさえずりが、歌のように響いてくる。
 ここは森。
 降りそそぐ日差しが、芽吹きを待つ枝を照らす。
 私はそこで、彼らの帰りを待っている。
 
 漕ぎ手のないブランコが、風と戯れている。
 ここは公園。
 蒲公英が、懸命に根を張って息をする。
 私はそこで、彼らの帰りを待っている。

 早起きの働き者達が、挨拶を交わしている。
 ここは港。
 さざ波に揺られ、今日も漁船が海へ行く。
 私はそこで、君の帰りを待っている。 

 「おかえりなさい」
 その一言を言うために、私たちはここにいる。

****
「小説家になろう」にも掲載させて頂きました。
あれから一年。今日だからこそ伝えたいこと。

拍手[0回]

今日は涼さんの誕生日なので短編書きました。宜しければお茶請けにどうぞ。
以下本編です。

* * * * * * *

 「お父さんって、いつも白衣ばっかり着てるわね」
涼子は唐突にそう切り出した。居間でコーヒーカップを手にしている涼は、
「私は研究者だからね」
そう言うと、熱いコーヒーをすすった。眼鏡が少し曇った。
「折角整った顔してるんだから、もっとオシャレすれば良いのに」
涼子は不満気だった。パジャマ姿でソファーに寝転がり、ごろごろしながら主張を続けている。行儀の悪い娘だった。
 一方の涼も、
「でもそれは研究に必要ないからなー」
机に肘をつき、おやつのケーキをフォークでつついている。行儀の悪い父だった。
 すると涼子は何を思ったのか突然立ち上がり、
「お父さんに白衣以外を着せてやる!ちょっと待ってなさい!」
一目散に何処かへ走っていった。


 涼が二杯目のコーヒーを飲んでいる時だった。
「お待たせ!」
「……状況がよく分からないんだが」
涼子が竹田を連れて戻ってきた。
 いつの間にか涼子はパジャマから制服のようなものに着替えていた。コスプレにしか見えないが、れっきとした涼子の私服である。
 いきなり連れてこられた竹田は、涼の姿を見て苦虫を噛み潰したような顔をしている。
「何度も言ってるだろ、オレはお前の家の家政夫じゃない!」
文句を言っている竹田は、モノクロ調の服で無難にまとめていた。黒いジャケットに白いシャツ。細めのネクタイがアクセントだ。ズボンに付けられたチェーンが少し不良っぽかった。
 きょとんとしている涼は、
「えっと、誰だったかな?」
正直にそう尋ねた。
「竹田だよ!どんだけお前の身の回りの世話したと思ってるんだ!いい加減覚えろ!」
必死に自分をアピールする姿が、何だか哀れだった。
「あ、思い出した。いつもと違う格好してるから分からなかったよ」
竹田は頭を抱えた。もうやだ帰りたい。きっとそう思っているのだろう。
 「とにかく、お父さんには今から竹田の服を着てもらうからよろしく」
「はあっ?何でオレの服貸さなきゃいけないんだよ!」
「あー、つまり白衣以外を着ろと?涼子は面白いこと考えるね」
「善は急げって言うでしょ?つべこべ言わずにさっさと着替えてきなさい!」
涼子の命令に、男二人は大人しく従うことにした。涼子がさりげなく拳を作ったのに気付いたからだ。


 数分後。
「なにこれ変な感じ。竹田君、君はいつもこんなに変な服を着ているのかい?」
「変とか連呼するな!普通だ、普通!」
竹田の服を着た涼と、涼の服を着た竹田が戻ってきた。
 白衣以外は着ないと言っておきながら、涼の着こなしは完璧だった。ロックバンドにいそうな感じだ。服の持ち主である竹田よりも似合っている。
 その竹田はと言うと、多少知的な感じはするものの、中途半端な感じだった。理科の実験で同級生が慣れない白衣を着てからかわれる感じ、と表現すれば良いだろうか。
 涼子は目の前の父の姿に、
「ほらー、やっぱり似合うじゃない。たまにはそういう格好したら?」
嬉しそうにはしゃいでいる。竹田のことなど眼中にないらしい。
「そうだ!お父さん、それでちょっと外出してきなさい!絶対女の子に声かけられるわよ」
「えー、私はインドア派だから外には出ないよ。買い物だったら通販ですれば良いし、人付き合いはネットでしているから外出する必要ないし」
「じゃあ三十分だけでいいから!あ、竹田。ブーツ借りるわね」
「おいちょっと待てよ!」
乗り気ではない涼の背を押して、涼子は居間を出た。
 一人残された竹田は、
「……じゃあ、夕飯の支度でもするか」
ため息を吐いて、居間にハンガーで吊るされたエプロンを手に取った。胸の部分に、『竹田』と刺繍のあるエプロンだった。


 丁度三十分後。竹田が野菜スープを火にかけながら餃子を包んでいる頃、ぐったりした涼が帰ってきた。それとは対照的に、涼子の足取りは軽い。何故か芝田も一緒だった。
 ジャケットを脱ぎ捨て、ソファーに身を投げ出した涼は、
「この服重過ぎるよー」
おもむろにネクタイを緩め始めた。
「ちょっとお父さん、年頃の娘の前で着替えないでよ!ちゃんと自分の部屋行って着替えなさい!」
「えー」
出かけたときと同じように、涼は力ずくで居間を追い出された。
 「おい、涼子。あいつの服、今オレが着ちゃってるんだけど」
キッチンからする声に、
「大丈夫。お父さん服のスペアだけは沢山持ってるから。同じやつばっかりだけど」
涼子は平然と答えた。
「それより聞いてよ!芝田が面白かったんだから」
「涼子、その話はしないで!恥ずかしいじゃないの!」
いつになく慌てている芝田を無視して、涼子は話し始める。
 「道歩いてたらお父さん声かけられたの!しかも、その声をかけた人が芝田だったのよ!」
「だって白衣じゃなかったから……!」
「しかもしばらく気付かなくて、私に『あのお兄さん誰?紹介して!』って聞いたの。いやー、まさか知り合いにもばれないなんて」
「もう止めてよー!本当にあんたのお父さんだなんて分らなかったんだから!従兄弟か何かだと思ったのよ!」
真っ赤な顔で反論する芝田が流石に可哀相になったので、涼子はこのくらいにしておくことにした。しかし思い出し笑いは止まらないようで、声を押し殺して笑っている。
 餃子を包み終え、竹田がキッチンから姿を現した。
「なあ、涼子。さっきの話を聞く限りだと――」
「何よ」
涼子と視線が合い、一瞬怯んだが、
「芝田の中では、涼イコール白衣、って認識してるんじゃないのか?」
正論を口にした。涼子は目を丸くして驚いている。
「そうよそれ!私の中では涼イコール白衣なの!」
竹田のフォローのおかげか、芝田はいつもの調子を取り戻した。通常営業である。
 涼子はますます訳が分からなくなって、
「え、だってお父さんは白衣以外にも特徴あるわよ。眼鏡だし、三つ編みだし、陰険だし、生活は人並み以下だし」
褒めているのか、けなしているのか、よく分からないことを言った。
「それはお前があいつの娘だからだろ?オレ達にとっては、あいつはただの迷惑な白衣野郎だ」
「私にとっても、ただの白衣研究者よ!格好良いとか思ったことなんて、多分ないんだから!」
 二対一では分が悪いので、涼子は携帯を取り出すとメールを送信した。宛先は、坂田、泉、空、桃太郎である。その文面は、『水無月涼と言えば?』という簡素なものだった。
 返事はすぐに来た。坂田は、
『白衣です』
泉は、
『眼鏡と白衣じゃないのか?』
空は
『三つ編み、白衣』
桃太郎は、
『陰険。白衣。気に食わない』
これまた簡素だった。三人とも、白衣という項目が入っていた。
 「やっぱりこっちの方が落ち着くなー」
いつも通りの姿で、涼が居間に戻ってきた。
「やっぱり白衣だな」
「白衣よね」
頷きあう竹田と芝田。
 涼子は何かを期待して、
「ねえ、お父さん。自分の特徴って、何だと思う……?」
父にそう尋ねた。涼は間髪入れず、
「白衣!」
元気に断言した。
「……お父さんに白衣以外を着せようとしたことが、そもそも間違いだったのね」
涼子は意気消沈して、机に突っ伏した。
 「私は研究者だからね。白衣は私の存在そのものだよ」
ウインクしながら、研究者は胸を張った。
 (おわり)

拍手[0回]

前のページ 次のページ
photo by 七ツ森  /  material by 素材のかけら
忍者ブログ [PR]
カレンダー
04 2024/05 06
S M T W T F S
1 2 3 4
5 6 7 8 9 10 11
12 13 14 15 16 17 18
19 20 21 22 23 24 25
26 27 28 29 30 31
フリーエリア
最新コメント
[05/13 Backlinks]
最新トラックバック
プロフィール
HN:
水連真澄
性別:
女性
趣味:
執筆(小説、作詞等)、落描き、アニメ鑑賞、歌唱
バーコード
ブログ内検索
P R
アクセス解析